2024.10.30
補聴器に詳しい耳鼻咽喉科専門医の先生にお聞きしました
「最近、聞こえが悪くなった気がする…」
「もしかして、補聴器が必要なのかな?」
そう感じていませんか?
加齢とともに聞こえにくくなるのは自然なことです。
しかし、聞こえにくさを放置すると、コミュニケーションの減少や認知症のリスク増加など、様々な問題に繋がることがあります。
そこで、今回は耳鼻科医の関谷先生に補聴器に関する疑問や不安を解消するヒントを伺いました。
『聞こえが良くないなぁ・・補聴器が必要なのかな?』と感じたときに
Q1:先ず何をすればいい?
A1:必ず耳鼻科医を受診してください。可能であれば 補聴器相談医が在籍している耳鼻咽喉科専門医をお勧めします。それは難聴の原因によっては治療可能な疾患が隠れている可能性があるためです。
・治療の必要性の判断など
耳鼻科医による耳の診察と聴力検査等により難聴の程度や原因を診断し、補聴器を含めた治療方針を決定します。
・補聴器が良く分かっているドクターに相談することなど
先ほども記載しましたが、耳鼻咽喉科医の中には【補聴器相談医】という資格があります。この資格を保有している医師は補聴器相談医の講習に定期的に受講し、新しい補聴器の知識を得続ける必要があり、難聴者に対する補聴器相談により専門的な対応が可能となります。また、補聴器適合判定医という資格もあり、この資格を取得するためには5日間の講習を受ける必要があります。この資格を有していると補聴器の器種や調整の適合状態の判定が可能となります。
Q2:ドクターに補聴器の装用を奨められた場合、どこで購入すればいい?
他に何か必要なものは?
A2-1:補聴器外来を行っている耳鼻咽喉科と連携のとれた、認定補聴器専門店で試聴をおこなうことが望ましいです。認定補聴器専門店には必ず認定補聴器技能者という補聴器の専門家が在籍しているので、そのような販売店での購入することで、購入に関するトラブルや問題は減少します。
A2-2:ドクターに 『診療情報提供書』の作成を依頼しましょう。
補聴器は残念ながら健康保険の適応ではありませんが医療費控除制度が利用可能です。これは補聴器相談医にのみ作成可能となるため事前に確認しておく必要があります。
また、医療費控除の書類は購入前に記載する必要があるので注意してください。
その他の情報
a.集音器と補聴器の違い(集音器は難聴をケアするものではないことなど)
補聴器と集音器の違いは、主に次の点です。
1.医療機器としての認可: 補聴器は国の認可を得た医療機器であり、一定の基準を満たしています。一方で、集音器は医療機器としての規制がない一般的な音響機器です。
2.販売と調整: 補聴器の販売には医療機器取り扱いの認可が必要であり、調整も専門の技術者が行います。一方、集音器は誰でも販売でき、購入者が自分で調整しなければなりません。また、故障時の修理保証も集音器にはほとんどありません。
このような違いに加え、補聴器には広告や宣伝に規制がありますが、集音器にはそれがないため、効果を誇張した広告が多く見られます。その結果、効果を期待して集音器を購入した人々からの消費生活センターへの相談事例が年々増加しています。
b.両耳装用について(方向感、騒音下での聞き取り改善など)
補聴器は可能であれば両側に用いるのが一般的です。それは、人は音声を聞き取るときに右と左の音の大きさや音が耳に届く左右の時間差などを参考にして脳が判断するためです。その為、片側のみの装用にすると音の聞こえる方向が判断しにくくなったり、騒音下での聞き取りが低下してしまい十分な装用効果が得られないことがあるので、極力両耳装用を勧めます。
c.(聴覚)トレーニングの必要性 ※慣れるまでに2〜3か月を要することなど
補聴器はメガネのように装用するとすぐに効果がでる器機ではありません。それは日常生活で耳に入ってくる音の中には様々な雑音が入っている為です。この雑音を普段は脳が認識して除去して理解しているのですが、補聴器を最初につけると雑音も大きくなり、それに脳が対応できないために雑音ばかりが大きくなったように錯覚してしまうのです。しかしながら、脳は優秀で長時間補聴器の雑音を聞いていると徐々に慣れてきて補聴器からの雑音も除去することが出来るようになります。これには個人差はありますが2,3か月程度と言われています。この状態になるまでは多少雑音が苦痛と感じるかもしれませんが、頑張って長時間(一日9時間以上)装用することをお勧めします。
d.定期的なきこえの検査の必要性(医療機関と販売店とは常に相談する。長いつきあいになることなど)
補聴器を装用していても、聴力は少しずつ悪化します。その度に補聴器を調整する必要が出てきます。その為聴力低下を確認するためには、耳鼻咽喉科での聴力検査が有用であり長くても1年に1回程度の聴力チェックを勧めます。また、自覚症状があまりなくても補聴器に耳垢が詰まっていたり、器械が故障していることもある為定期的な販売店でのメンテナンスは必要です。
e.認知症と難聴との関係(海外のエビデンスなど)
超高齢化社会の日本において認知症患者の増加も大きな問題となってきています。近年WHO(世界保健機関)により認知症のリスク因子が発表され、その中で予防可能な最も大きな因子として補聴器による難聴予防が指摘されました。恐らく小さな声での会話や複数人での会話が聞き取れず積極的に集まりなどへの参加が億劫になってしまうのが認知症進行の一番の要因だと思われます。
このような方の多くは一対一での会話であれば聞き取ることが可能であるため、補聴器はまだ早いと思われていますが、聴力検査をしてみると十分補聴器が必要な聴力になっていることもあります。少しでも「聞こえにくいな」とか「聞き間違えが増えたな」と思われるようでしたら耳鼻咽喉科への受診をお勧めします。
八重洲出版「よくわかる補聴器選び 2025年版」
監修・著 耳鼻咽喉科専門医 補聴器相談医 関谷耳鼻咽喉科院長 関谷健一
現役の耳鼻科医・補聴器相談医が執筆した補聴器選びの入門書。
聴力を保つことは認知症の予防や、日常生活の質を向上させることにつながります。
補聴器にはじめて触れる人や買い替えのユーザーにもぜひご一読いただきたい補聴器ガイドの決定版です。
関谷 健一 先生
経歴
1982 年 名古屋市に誕生
2007 年 名古屋市立大学医学部卒
2007 年 春日井市民病院 臨床研修医
2010 年 名古屋市立大学病院 耳鼻咽喉科
2012 年 安城更生病院 耳鼻咽喉科
2013 年~17 年 名古屋市立大学大学院博士課程
国立自然科学研究機構生理学研究所にて難聴・耳鳴研究で医学博士取得
2016 年 名古屋第二赤十字病院 耳鼻咽喉科
2019 年 安城更生病院 耳鼻咽喉科病棟部長
2021 年 前院長父芳正より医療法人緑葉会関谷耳鼻咽喉科を継承
エスエル医療グループに参加
2023 年 補聴器外来リニューアル
2024 年 補聴器外来拡充
日本耳鼻咽喉科専門医
耳鼻咽喉科専門研修指導医
補聴器相談医
補聴器適合判定医
耳鼻咽喉科専門医
小児慢性特定疾患指定医
難病指定医
身体障害者福祉法第15条第1項に規定する医師