2019.9.6
補聴器の歴史~トランペット型からフルデジタル超小型まで~
難聴の方にとって欠かせない補聴器ですが、その歴史はサイエンスとテクノロジーの進化にあわせて発展してきました。今回は補聴器の歴史を振り返っていきます。
電気式の補聴器ができる前
記録に残っている範囲で、補聴器の歴史の始まりは1600年代中盤にさかのぼります。
ドイツの数学者であり哲学者、キルヒャー氏がトランペット型の補聴器を作ったことに始まります。キルヒャー氏はさらに聴音器の実験を重ねたといいます。
その後、1790年代には音楽家のベートーヴェンが難聴になり、トランペット型補聴器を使用していたというエピソードはよく知られています。
そして1800年代に入り、トランペット型の補聴器が各地で販売されました。
そして1819年にカーボン・マイクロホンの開発を機に電気式補聴器への道が拓けます。
グラハム・ベルの「電話機」発明
1870年代は補聴器の歴史において大きな転換点でした。
1876年にアメリカのグラハム・ベルが「電話機」を発明します。
そして2年後の1878年、ドイツのヴェルナ・フォン・ジーメンスが難聴者向けの電話受話器を発明しました。これがシーメンス補聴器の誕生の歴史でもあります。
また、同年にイギリスとドイツで電気装置を使った聴力検査が始まります。
ついに電気式補聴器の開発へ
そして1892年アメリカのMiltimore氏が電気式補聴器の特許を取得します。
そして以降1900年代初頭まで、いわゆる補聴器メーカーが誕生していきます。
今に続く補聴器メーカーの一つ、「オーティコン」社は1904年にデンマークのハンス・デマント氏よって設立されました。
真空管補聴器 全盛期
そして1920年代は真空管補聴器全盛期となります。お弁当箱のような大きさでした。
現代でも、自然で耳あたりのよい音を出せる真空管アンプはオーディオマニアの間では人気がありますね。
今の形態の源流となる補聴器の誕生
1940年代から、今の補聴器の元になるような機能を持った補聴器が多く開発されていきます。ポケット型補聴器、テレホンコイル付き補聴器、今の音処理のベースとなるダイナミックコンプレッション機能のある補聴器などさまざまなアイデアが形になりつつある時代でした。
トランジスタ式と耳あな型・耳かけ型補聴器
真空管アンプに代わり、小型で耐久性のあるトランジスタ型アンプを搭載したポケット型補聴器が1953年ごろから普及しはじめます。
その後、その形状を生かして、現在主流である耳かけ型や既成耳あな型補聴器が誕生します。ただし、「お弁当箱」から身体に身につけられるぐらいの小ささになったものの、その見た目が洗練されるのはもっと後の話です。
さらなる小型化を実現したICチップ(集積回路)
そして1960年代にはICチップを使った補聴器が登場します。
IC(集積回路)とは、簡単に言えば、先述したトランジスタを複数持ち超小型化した半導体のことです。今のデジタル補聴器も、このICがベースになっています。
この後、1980年にはカナル型(オーダーメイド)補聴器が開発され、私たちがよく知っている補聴器が次々と誕生します。
デジタル補聴器の前身、プログラマブル補聴器
1980年代後半にはプログラマブル補聴器が誕生します。
電気信号はアナログですが、制御をデジタルで行い、それまで音質調整をトリマー(ドライバー)でネジを回して調整していたものがコンピュータで出来るようになりました。
そして1988年にはレシーバーの代表的な会社ノウルズ社が超小型レシーバーを開発し、カナル型よりさらに小さい、超小型補聴器(CIC)が現実のものとなりました。
1990年代、デジタル補聴器の黎明期
デジタル化に伴い、それまで主に音を増幅したり、若干の音質加工しかできなかった補聴器にさまざまな機能が追加されていきます。感音難聴向けの聞こえ方に合わせるためのダイナミックレンジコンプレッション、ボリューム要らずのノンリニア補聴器、ハウリング抑制機能の誕生など、今ではおなじみの機能もこの時期に誕生しました。
そして、1996年、デンマークのワイデックス社とオーティコン社からフルデジタル補聴器が発売されました。
2000年代、開発競争の時代
2000年代は補聴器メーカーによる開発競争の時代でした。
ほぼ1〜2年に1度の割合で、多額の開発費を投じて各メーカーから目新しい機能を搭載した補聴器が開発されていきました。
補聴器の調整の細かさを示すチャンネル数も2チャンネルから16チャンネル、またはそれ以上となりました。チップの性能が向上して付加価値がアップしたことにより、それが平均価格の上昇にもつながりました。
もちろん、形状での大きな変化もありました。
今では市場占有率の高い、超小型耳掛け型補聴器、オープンフィッティングタイプが2003年にGNリサウンド(現・GNヒヤリング)社から発売、2006年からは外付けレシーバータイプ(RIC補聴器)が市場のトレンドとなっていきました。リモートコントロール機能や、データロギング(ユーザーの使用状況を補聴器本体に記録する機能)など、今では標準的なオプション機能が出揃った時期です。
2010年代、今後の補聴器の展開
デジタル補聴器は現在も変わらず継続的な技術発展と新製品の開発が続いています。
そして今や世間のトレンドも変わってきており、現在は「見せる」補聴器として、そのデザインの変化にも注目が集まります。
各社スタイリッシュな補聴器がグッドデザイン賞をはじめ海外でも同様の賞を数多く受賞しているように、今後ますます補聴器のデザイン性は重要視されていくでしょう。
今回は補聴器の歴史を振り返っていきました。
写真付きの年表は一般社団法人 日本補聴器工業会と補聴器販売店協会が創立30周年で共同発行した記念誌「補聴器業界の歩み」(PDF)でご覧いただけますので、そちらもどうぞご覧ください。