補聴器は聞こえの調整がとても大切なものです。決して安くない金額も、購入後の調整などアフターケアの代金が含まれているからだ、というのは以前もコラム『補聴器の値段は本当に高いのか?価格の理由と店選びの重要性』でお伝えした通りです。
新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の人々が外出自粛を余儀なくされました。自粛期間中は補聴器調整のために店舗に出向くのが難しい状況となり、不便な思いをされた方も多いかと思います。
そんな中、世界6大補聴器メーカーの1つであるオーティコンが、2020年4月に遠隔調整サービスをリリースしました。これはもともと2020年後半を目途に準備を進めていたものでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大による状況を踏まえ、時期を早めてリリースされたそうです。
新型コロナウイルスが思わぬ追い風となった遠隔調整サービスですが、実は遠隔調整サービス自体は以前から存在していました。例えば、こちらも世界6大メーカーの1つであるシグニア(旧シーメンス)は2017年に遠隔調整のできるアプリ「マイヒアリング」をリリースしており、同じく世界6大メーカーに含まれるGNリサウンドも同2017年に遠隔調整アプリをリリースしています。
初期の遠隔調整サービスは簡易的な調整のみに対応しており、高度な調整には対応できませんでした。現在はスマホの普及と補聴器自体の進化により、アプリによる高度な調整に対応できるようになったため、ほかのメーカーも遠隔調整にさらに力を入れ始めています。
今後は遠隔での補聴器調整が、調整の一つの選択肢として当たり前のものになっていくことでしょう。
補聴器の「調整」について
最適な聞こえは人によって異なります。補聴器は調整して初めて聞こえにフィットする精密機械ですから、最適な調整ができていれば最大限の効果を発揮しますが、適した調整ができていないと、宝の持ち腐れとなってしまいます。
また、環境や年齢によっても最適な聞こえは変わりますので、補聴器の調整も常にアップデートが必要です。
ただ、補聴器の調整を定期的に店舗で行う際、近隣に店舗がなかったり、体調などが理由で外出できなかったり、忙しくて時間が取れなかったり……。さまざまな理由でなかなか店舗に出向くことができない、というお客様がいることも事実。そんな問題に対しての解決策の一つがこの遠隔調整サービスです。では、遠隔調整サービスとはどのようなものなのでしょうか。
補聴器の遠隔調整ってどんなもの?
遠隔調整とは、インターネットを介した遠隔操作により、自宅などの好きな場所から補聴器の調整を受けることが可能になるサービスのことです。これにより、調整のためにわざわざ店舗に出向く必要がなくなります。
遠隔調整はメーカーによって手法が異なり、現在使われている方法は下記の2種類です。
・リアルタイムで遠隔調整を行う方法
・ユーザーが店舗に送った要望をもとに、店舗側がアプリに調整データを送信。そのデータを補聴器に送信して調整が完了する方法
メーカーや店舗によって「遠隔調整」「遠隔調整サービス」「リモートケア」「リモートサービス」など、さまざまな呼び方がありますが、基本的には内容は同じです。
メーカーごとに独自に開発したシステムを利用しており、メーカーによって遠隔調整の方法は多少異なりますが、それについては後ほどご説明します。
遠隔調整のメリット&デメリット
遠隔調整のメリット、デメリットは以下です。
■補聴器遠隔調整サービスのメリット
遠隔調整サービスのメリットは主に下記の3つです。
・自宅など、好きな場所で気軽に調整を行うことができる
・普段の生活環境に合わせた調整が可能になる
・わざわざ店舗に出向く必要がない
何と言っても、店舗に行かず自宅で調整が可能となるのが最大のメリットでしょう。アプリなどで顔を見ながら話せるので、対面ではない会話に不安がある方も安心です。メーカーによってはビデオ通話が苦手な方に向けて、電話やチャットでも対応できるようにしているところもあります。
普段の環境で聞こえをチェックできるので、リラックスした状態で調整を行うことができるのもメリットの一つです。
■補聴器遠隔調整サービスのデメリット
何事もメリットだけではありません。便利な遠隔調整サービスにもデメリットは存在します。主なデメリットは下記の3つでしょう。
・クリーニングなど、調整以外のことはできない
・整備された環境で聞こえをチェックすることができない
・アプリなどを利用する際は、環境の確認が必須
当たり前ですが、直接補聴器を触る必要のあるクリーニングなどは遠隔では対応できません。また、防音室など整備された環境で厳密に聴力を測定することも難しいでしょう。もっとも気を付けておきたいのは、お持ちのスマートフォンやタブレットがアプリに対応していないと利用できないということ。機種のスペックやOSのバージョン確認が必要です。
遠隔調整の注意点
現時点では、初回は店舗で扱う調整ソフトの設定などのため、初回の調整については店舗で行う必要があるメーカーがほとんどのようです。
遠隔調整を行うには、お使いの補聴器が遠隔調整サービスに対応している必要があります。また、メーカーによって使うシステムやアプリが異なるため、補聴器の買い替えなどでメーカーを変えた場合は、また新しいアプリをダウンロードしなければなりません。
メーカー別、遠隔調整サービスの特徴
ここでは、世界6大メーカーの遠隔調整サービスについてご紹介します。
世界6大メーカーとは下記に記載した6メーカーのこと。この6つのメーカーが世界の補聴器のほとんどのシェアを占めています。
では、メーカーごとに遠隔調整の特徴を見ていきましょう。(上記のメーカー名をクリックすると、各メーカーの遠隔調整の項目に飛びます)
※遠隔調整サービスやアプリは無料でご利用いただけますが、いずれのサービスも通信料は別途かかります。
■シグニア(旧シーメンス)の遠隔調整
シグニア補聴器の遠隔調整サービスは「テレケア」という名称です。
シグニアは、スマホアプリで補聴器とお店が遠隔でコミュニケーション可能になるサービス「マイヒアリングアプリ」を2017年にリリースしており、これは音量調整・音質調整を遠隔で行うことができるサービスでした。
現在はマイヒアリングアプリとマイコントロールアプリ、タッチコントロールアプリ、3つのアプリの機能を統合した「シグニアアプリ」でさらに高度な遠隔調整が可能となっています。
対応器種
Fun及びbinax世代以前の補聴器を除く、すべてのシグニア補聴器
(Fun、binax、Orion2、Sirion2は利用不可。Promptは利用可能)
サービスの特徴
相談後、販売店のPCから「シグニアアプリ」に調整データが届きます。そのデータをアプリから補聴器に転送することで調整が完了する、というのがシグニアの遠隔調整サービスの特徴です。
その他注意事項
店頭で6桁のテレケアコードを入力することで利用可能となるサービスなので、初回調整は店頭で行うことが必要です。
■オーティコンの遠隔調整
前述の通り、オーティコンは2020年後半を目途に準備を進めていた遠隔調整サービスを2020年4月にリリースしました。これは新型コロナウイルスの感染拡大による状況を踏まえ、時期を早めてリリースされたものです。
オーティコンの遠隔調整サービスは「オーティコンリモートケア」という名称です。
利用にあたっては、スマートフォンとタブレットで利用できるアプリ「オーティコンリモートケア」をダウンロードする必要があります。このアプリはAndroid、iPhone(iOS)いずれにも対応しています。
対応器種
オーティコンリモートケアの対応器種は下記です。
OpnS、Opn(FW6,0以上)、Xceed、Opn Play、Xceed Play、Siya、Ruby
サービスの特徴
オーティコンリモートケアは、会話をしながらリアルタイムで補聴器の調整を行うことができるサービスです。会話にあたって、「テレビ通話」「音声通話」「テキストチャット」の中から好きなものを選ぶことができるため、テレビ通話が苦手な方でも安心して利用できます。
その他注意事項
初回調整は店頭で行うことが必要です。
また、オーティコンリモートケアは、18歳以上のユーザーに向けたサービスという記載がありますが、メーカーに問い合わせたところ、「17歳以下のユーザーについては、保護者の管理下のもと、スマホとペアリングができていれば利用可能です」との返答が得られました。
■GNリサウンドの遠隔調整
GNリサウンドの遠隔調整は、『リサウンド・アシスト遠隔サポートライブ』という名称のサービスです。スマートフォンやタブレットで利用できる『リサウンド・スマート3Dアプリ』を使い、ビデオ通話を通じて、遠隔で聴力テストや補聴器の購入相談・初期調整、その後の調整を受けることができます。
最大の特徴は、補聴器購入前や購入時の試聴や調整も可能であること。アプリ上で調整依頼を送り、調整データを送ってもらうこともできるため、ビデオ通話を使わなくても調整が可能です。
対応器種
リサウンド・ワンマリー、リサウンド・ワン、リサウンド・リンクスクアトロ、リサウンド・リンクス 3D、リサウンド・エンツォ クアトロ、リサウンド・エンツォ 3D
※対応器種はスマートフォンなどの端末とダイレクト接続が可能なモデルです。
サービスの特徴
補聴器購入前や購入時にお店に行く必要はなく、すべて自宅などの好きな場所で試聴や調整が可能なのが『リサウンド・アシスト遠隔サポートライブ』の大きな特徴です。
アプリ上でいくつかの質問に答えて送信すると、お店の補聴器専門家が再調整を行い、新しい設定を送信してくれる、というのがGNリサウンドの遠隔調整サービスのもう一つの特徴です。送られてきた設定を補聴器にインストールすることで、すぐに新しい設定を利用できます。
その他注意事項
『リサウンド・スマート3Dアプリ』は、iOS端末のみ利用可能です。その他の端末については2020年5月1日時点では利用することができないので注意してください。iOS端末以外の端末については随時対応予定だそうです。
聴力測定もできてしまうのがGNリサウンドの遠隔調整サービスの大きな特徴ですが、対面での測定もまだまだ重要なものと位置付けています。対面でないとわかりにくいことも多いため、店頭での調整と遠隔調整、どちらも利用することをメーカーでは推奨しているようです。
■ワイデックスの遠隔調整
ワイデックスの遠隔調整サービスは、スマートフォンやタブレットで利用できるアプリ「WIDEX REMOTE CARE」と、WIDEX REMOTE LINKという独自の端末をペアリングさせて行うのが大きな特徴です。
対応器種
CIC-M、CLEAR・SUPERを除く無線フィッティング対応補聴器で遠隔フィッティングが利用できます。
サービスの特徴
スマートフォンやタブレットでビデオ通話をしながら、WIDEX REMOTE LINKを介してリアルタイムで調整を行います。
その他注意事項
初回調整はWIDEX REMOTE LINKとのペアリング設定などがあるため、店頭で行うことが必要です。
■フォナックの遠隔調整
フォナックの遠隔調整サービスは、スマートフォンやタブレットで利用できるアプリ「マイフォナック」を利用して行います。
対応器種
オーデオ マーベル、ボレロ マーベル、バート マーベル
※Bluetooth接続を備えた補聴器にのみ対応しています。
サービスの特徴
会話をしながらリアルタイムで補聴器の調整を行うことができるサービスです。Bluetoothを使用して調整を行います。
その他注意事項
初回調整は店頭で行います。
また、遠隔調整時には、前もってアプリと補聴器をペアリング設定しておくことが必要です。
■スターキーの遠隔調整
スターキーの遠隔調整サービスは「どこでも聴覚ケア」という名称で、Livioシリーズの補聴器に対応しているサービスです。スマートフォンやタブレットで利用できるアプリ「スライブアプリ」を利用して行います。スライブアプリは補聴器と接続することで健康管理や音声翻訳などに対応しているアプリでもあります。iOS端末と一部のAndroid端末に対応しています。
対応器種
Livio Edge AI、Livio AI、Livio
※現在、Livioシリーズの補聴器に対応。
サービスの特徴
スライブアプリには補聴器の不具合を自分で診断できるセルフチェック機能があります。補聴器に物理的な不具合があるかどうかを簡易的に確認した上で遠隔調整を依頼することも可能です。
その他注意事項
初回調整は店頭で行う必要があります。基本調整ならびに遠隔調整の為の設定を行います。
今後も進化していく遠隔調整サービス
オンラインでの会議や飲み会も一般的になってきた今の時代にぴったりの遠隔調整サービス。まだまだ始まったばかりですから、今後さらに便利に進化していくことが期待されます。
補聴器を購入する際には、器種や店舗を決めるときに、「遠隔調整サービス対応の器種かどうか」「遠隔調整にあたってアプリの使い方などを丁寧に教えてくれる店舗かどうか」などが今後は選択基準の一つとなっていくのかもしれません。
小型補聴器専門店ヒヤリングストアでは、全店において補聴器の遠隔調整サービスを行っています。2020年8月時点では、シグニア(旧シーメンス)、オーティコン、GNリサウンドの遠隔調整サービスが利用可能で、その他のメーカーにつきましては対応準備中です。
遠隔調整サービスに必要なアプリのダウンロードや設定も店頭でしっかりサポートしてくれるので、まずは最寄りのヒヤリングストアで相談してみてはいかがでしょうか。